北海道 北海道1年目の旅—アイヌモシリ


今年3年目の北海道旅行へ出かける前に、これまでの旅について触れておこうと思う。

過去2回の旅を通して、駆け足ながらも、帯広・富良野・美瑛・旭川・釧路・網走を見ることができた。
雪に覆われた冬の姿を見たいという気持ちを持ちながらも、
私が北海道を訪ねるのは、決まって4月〜6月、季節が春から夏に移る頃だ。

植物や動物が最も生命力に溢れる初夏は、私の一番好きな季節でもある。
そのことは、内地で過ごす時よりも北海道(または東北などの北国)で過ごす時の方が、
より一層強く実感することができる。

初めて訪れた帯広では、約2カ月の滞在の間に、その変化の速さと色の濃さに驚いた。


4月、長い冬の終わりを告げるようにして最後の雪が降る。
道南〜道東を越えて北上し、山に入れば、まだまだ一面の冬景色だ。

そして5月、雪の下で息をひそめていた生命が一斉に姿をあらわす。
桜の花が咲き、土筆の胞子が顔を出し、蕗やタンポポは大人の膝丈ほど高く背を伸ばす。ほかにも、百日紅・野バラ・ツツジなどの花木、レンゲ・チューリップ・マーガレットといった草花など、ありとあらゆる植物の成長が、ほぼ同時期に見られるのだ。野山では動物たちが子を産む季節でもある。

6月にもなれば、競い合うようにして育った植物が、あっという間に形を変える。
土筆は緑の葉を広げ、タンポポは綿帽子をつけて、大気中に無数の種を撒く。


こうして振り返ってみると、いかにも賑やかな様子が目に浮かんでくる。
けれど1年目の旅で私が書き留めた北海道の印象は「静かな場所」というものだった。

昼夜を問わず常に感じていたことだが、特に夜の闇の中で星の動きに目を凝らす時、
渡り鳥が飛び去った十勝川や札内川の川岸を眺める時などに、生い茂る草の陰から
その静けさが身にしみて感じられた。

それは単なる偶然ではなく、古くからこの地に住むアイヌの人々が、自らの根付いた土地を
「アイヌモシリ(モ=静かな・シリ=大地)」と呼んだことからも、伺い知ることができる。

後に知った、静かな大地を表す言葉。
それは、国境や県境で区切られた、何者かの権利を主張する特定の領土や区域ではなく
文字通り天に対して広がる足下の大地を指し示す言葉として、私の中に記憶されている。
岩手の山麓にある小さな開拓地や沖縄の島々でも、また九州や中国・四国地方の山間部でも、
同じ静けさを感じることができたからだ。もちろん大昔の話ではなく、今、現在の話として。

そういう旅の記録を、これから少しずつ綴っていこうと思う。




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