東京都杉並区 阿佐ヶ谷住宅

阿佐ヶ谷住宅(9/n)
2月の最初の日曜日、久しぶりに阿佐ヶ谷住宅へ散歩に出かけた。

通称「阿佐住(あさじゅう)」は、東京都杉並区成田東にある日本住宅公団の分譲型集合住宅で、
前川國男が設計を手がけたテラスハウスや、旧日本住宅公団の津端修一が導入したコモンスペース、
そして長年膠着状態が続く再開発計画の問題で知られている。

数年前から噂されていた再開発計画が今年3月に竣工すると聞いていたが
あいかわらず工事が着工する様子はなかったように思う。
ただピリピリした空気が充満していて、以前の大らかな雰囲気は薄れてしまった(ような気がした)。

昭和中期の団地愛好家や建築関係の専門家の注目を集めていたり、そこから派生して写真撮影が問題になったり、再開発に反対する建物住民や近隣住民と、再開発計画を進めたい開発者の間で問題が起こったりと、以前から微妙な状況ではあったのだけど。

阿佐ヶ谷住宅(10/n)
いちばん驚いたのが、張り紙の多さだった。
婦人有志の会の署名で、建物の老朽化・治安悪化を訴える内容に始まり、敷地は全て私有地であること、公道も元は私有地を国に寄付したものということ、それら共有地の維持管理は住民の税金で賄われていることなどが綴られ、さらに組合住人の多くが年金生活者であり、現住宅を売却した資金で建て替えを行うため、6階案でないと住み替えが不可能だという訴えが続く。
そのうえで一刻も早い着工を願う文章と、地区計画案の検討記録が図面で掲載されている。

再開発計画で一番問題になっているのが、新しい建物の建ぺい率・容積率に関する問題だ。
用途地域では、阿佐ヶ谷住宅がある成田東4丁目は、第1種低層住居専用地域に区分されているのだが、阿佐ヶ谷住宅建替え組合(企業所有の社宅を含む)および区、デベロッパー側は、地区計画を導入することにより高さ制限20m・容積率120%の緩和が認められるとして、テラスハウス等の低層建築物を大幅に減らして、地上6階建の中〜高層建築物を中心とした開発を計画。一時は3〜4階案なども提出されたが、共用空間の面積が減るという理由から、現段階での最終案は再び6階建ての計画になっている。

阿佐ヶ谷住宅(8/n)
先の同情を誘う文章を見ると、私などは一刻も早い着工を願う前に「市街地の整備改善及び賃貸住宅の供給の支援に関する業務を行う」という都市再生機構やデベロッパーに対して、現住居者への金銭的な支援を行うことで、現在の低層住宅ならびに共有空間と全体の景観維持を実現してください、とお願いしたくなる。数年前に、再開発のあおりをうけて実家の立ち退きが決まったあげく裁判沙汰になったことがあって、その時も似たことを思った。頭が悪い私にとっては、なんだか頭痛のするような話だった。

また別の偶然で、以前暮らした千歳烏山には、阿佐ヶ谷住宅と同じ昭和33年に、やはり前川國男による
設計で竣工した公団烏山第一団地があったが、こちらはすでに解体工事が着工している。

阿佐ヶ谷に引っ越した当初は、こういった状況も背景もほとんど知らなかったけれど、
阿佐ヶ谷住宅から善福寺川へ向かう道と、その一帯が気に入っていた。
私有地とされている共有空間と公道との間に境がないことが不思議だった。
とにかく緑が多く空の青が濃く見える。大きな広場では子どもがよく遊んでいる。
家の窓から木を眺めて季節の変化を喜んだりもした。
だから阿佐ヶ谷住宅がなくなったら、ずいぶん寂しくなるなと思う。



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