植物 サルビアの開花と株分け

サルビア(2/2)

上京して3年か4年を過ぎた頃から、町中にある緑の変化に気付くようになった。
通勤途中の道にある植え込み、家の前の街路樹も、春には淡い萌黄色の芽がふき、
夏には濃い緑の葉が繁ることを見逃さなくなった。

それに気付いた時は、都会の風景に目が慣れたとか、余裕ができたというよりも、
単純に私が歳をとった証拠だろうと思った。

年齢を重ねるにつれて、あわただしい街の喧噪や時好よりも、
ささやかな自然の移り変わりに心を寄せるようになることは、
ごく自然なことのように思える。
わりに多くの人が同じような経験と感想を持っているのではないか、とも思う。

殊更の根拠はないけれど、私の変な持論のひとつに、こんなものがある。
「人は歳をとると、漬物をつくり、植物を育てはじめる(特に女は)」

私の母も近所のおじさんも、ベランダや庭や部屋いっぱいに植物をはびこらせて、
つくりすぎた漬物を配って回る。育てる楽しみを覚えた、そんなところだろう。




例にもれず、私も植物を育てるようになった。
最初は山や田舎の村で、次は街で植物を見るのが楽しみになって、そのうち自分でも植物を育てるようになった。とはいえ植物を買うというのは、それなりに勇気のいることだったから、最初は必要に迫られて、仕事で購入した鉢植えを、仕方なくそのまま家に持ち帰ったのだった。

幸いなことに、花の咲かない丈夫な観葉植物や多肉植物といった品種がほとんどで、
うまく育ったから、その調子でひとつ、ふたつと植物の数が増えていった。


ここから閑話休題で、いくつかの植物を枯らして、いくつかの植物を育てたあと、
2年前の夏に三宿のTHE GLOBEで、写真のサルビアを購入した。



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この店のガーデニングコーナーには、英国のアンティークをはじめとした
趣きのあるガーデニング家具や雑貨用品が置かれているのだが、どうも植物に元気がない。

でもこのサルビアは、ひと目見て気に入ったので、試しに買ってみた。
秋には、薄いピンクの花が咲くという。素焼きの鉢と合わせて千数百円だったと思う。
購入時に添えられていた説明書きに、学名などの詳細は載っていなかった。

サルビアもまた丈夫な多年草で、何百もの種類がある、ハーブの一種だ。
本来なら自らの重みで倒れてしまうほど、背丈が大きくなるのだけど、
私のサルビアは葉の色も薄く、茎も細く、1年目はついに花をつけずに終わった。

そのサルビアが、2009年の年明けとともに開花した。
2年目の秋も変化が見られず、なかば諦めかけていただけに嬉しかった。

頼りなさげな草姿を見るたびに「これは本当にサルビアなのか」
「もともと花なんて咲かない品種なのではないか」と疑ったものだが。
ずいぶんと遅咲きだった。思いがけない吉報が届いたような気分だ。

株分け用に切り落として、数ヶ月前から水挿しにしておいた枝も、順調に根を伸ばしている。

A happy and hopeful new year.


─ ところで「歳をとる」とは、どういうことだろう?
意図せず書いたことだけど、その変化を羅列して眺めるとおもしろい。
植物に関心を持ちだす、食べ物を漬けはじめる、話半分に聞きはじめる、とか。
だんだんと進行していく変化ばかりだ。進行というと悪いことみたいだけども。
ある日、突然切り換わるものではないんでしょうね。

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